
「HD 505」は、ゼンハイザーHD 500シリーズの最新世代を担う、リスニングからモニタリングまで幅広く対応できる開放型ヘッドホンです。HD 560Sと同じく、アイルランドのタラモア工場で製造されたトランスデューサーを搭載しています。
「HD 505」参考データ
- 形式:開放型ダイナミック
- インピーダンス:120Ω
- 感度:104dB
- 周波数特性:12Hz〜38,500Hz
- 重量:237g(ケーブル除く)
- 価格帯:4万円台後半(価格変動があります。購入時は必ず最新価格をご確認ください)
- 本来の用途:リスニング・分析的モニター
装着感はトップクラスです。イヤーパッドの当たりが柔らかく、側圧は程よい。開放型ゆえに蒸れにくく、長時間の使用でも負担になりません。
最初に音を出したとき、「広い」と感じました。HD 560Sの音場がすっきりと整理された部屋だとすれば、HD 505は天井と奥行きが少し増した部屋のようなイメージです。ただ広がっただけではなく、音の一つひとつが広がった空間の中で独立して存在しているのが分かります。空間が広くなると音が散漫になるヘッドホンがありますが、このヘッドホンはそうなりません。広がりと定位が両立しています。
金属的なSEの質感は、HD 560Sと比べると鋭さが明確に増しています。ただ疲弊するような水準には届かない。その手前で制御されています。低域については、HD 560Sと比べるとひと回り控えめです。迫力という意味では後退しますが、その分だけ中高域の空間が広く、澄んでいます。低域が主張しない分、音の層がより見通しやすい状態で届いてきます。
言うなればこのヘッドホンは「広角レンズ」です。
音を演出しない。しかし情報を広く、隅まで届けようとする。HD 560Sが制作者の意図をそのまま裁く判事だとすれば、HD 505はその法廷をひとまわり広くした上で同じことをしようとする機種です。
そして今回「HD 505」で聴き倒した「トランスフォーマー/ロストエイジ」は、音響設計の密度が高い作品のひとつです。
金属粒子の解像度・閉鎖空間の奥行き・垂直方向の音場という、ヘッドホンの能力差が出やすい要素が一本の映画に凝縮されています。その3つをそれぞれ最も直接的に問えるシーンとして、ガルバトロンの分子変形・宇宙船内部の追跡・磁力兵器を選びました。
検証環境
私は以下の条件で検証しています。
- DAC/AMP:iFi audio ZEN DAC 3(補正機能OFF)
- 音圧:75dB固定(ピンクノイズ+NIOSH SLM計測)
- 再生ソース:Apple TV(iTunes Store)購入タイトル
- 音声トラック:英語オリジナル音声
- 空間表現:アトモスを思わせる空間表現の再現性をもって評価
- 基準機:HD 560S 採点:執筆者の感覚による主観的評価です
シーン1:ガルバトロン分子変形
採点
- 高域のキレ・伸び:8
- 中域の密度・実在感:8
- 低域の制動:5.5
- 金属粒子の個数感:8
- 摩擦音のテクスチャ:8
- 音の輪郭の硬さ:8
- 空間飽和時の分解能:7.5
- 音源の移動速度:7.5
- 微細な環境音の拾い上げ:8
- 総合情報完遂度:8
合計:76.5 / 100
聴く前
このシーンを選んだのは、変形音の設計についての記述に出会ったことがきっかけです。巨体が無数の極小立方体に分解して空中で再構成される、その音が「波紋が広がるような連鎖する滝のような質感」として設計されたと知ったとき、これは聴かなければと思いました。
HD 505の特性として、中高域の解像度が高く、金属的な質感に明確な輪郭が出ることは事前に確認していました。このシーンで、その輪郭の精度が粒子の個数感と摩擦のテクスチャにどう反映されるかを確認するのが最初の問いでした。一方で低域の量感がHD 560Sより僅かに控えめな設計なので、粒子の「重さ」の表現がどうなるかについては、少し様子を見たい気持ちもありました。
体験
ガルバトロンが変形を始めた瞬間、粒子音の輪郭がくっきり現れます。「カチッ」という接触音が点として空間に打たれる感じがあり、各粒子の独立性が高いまま鳴り続けます。HD 560Sでも粒子の動線を追跡できましたが、HD 505では各粒子が少し「固くなった」という感じがします。輪郭に厚みではなく精度が増している、と表現するほうが正確かもしれません。
摩擦音のテクスチャも質感が細かいです。「シュルシュル」という粒子同士が擦れ合う音に、HD 560Sにはなかった繊維のような細かさが加わっています。粒子が接触して方向を変えるその瞬間の音が、独立した情報として届いてきます。中高域の解像度が上がることで、今まで混ざっていた音の層が分かれて聴こえてくる体験です。
空間飽和時の分解能については、HD 505の広い音場が効いています。粒子音が密集して飽和してきても、空間が広い分だけ各音が押しつぶされにくい。ただし飽和が高まってくると、個々の粒子の追跡がわずかに難しくなる場面があります。広さは分解能を助けますが、音の密度が限界に近づくと音場の余裕が埋まっていく感じです。
低域の制動は5.5点です。低域そのものの量感がHD 560Sより僅かに控えめな設計のためか、変形音が積み上がっていく過程で粒子の「重さ」の表現が後退します。膨らんで他の音域を塗りつぶすことはありませんが、粒子が「転がっている」感じよりも「漂っている」感じに近い。制動が破綻しているわけではなく、そもそもの量感が薄いというイメージです。
聴いた後
輪郭の精度が上がることで、粒子音の「地図」がより細密になります。HD 560Sで「音の地図」として把握できていたものが、HD 505では個々の粒子の広がりまで届いてくる感じです。情報量が増えているというより、情報の解像度が上がっている。この結果は予想通りでした。
一方で「粒子の重さ」については、このヘッドホンは明確に軽い方向へ傾いています。粒子の精度が上がった分、質量の感触が後退する。何かを得れば何かを失う。HD 505の選択がどちらに向いているかを、このシーンは端的に示していました。
シーン2:宇宙船内部の追跡
採点
- 高域のキレ・伸び:8
- 中域の密度・実在感:8
- 低域の制動:5.5
- 前後感(Z軸の深さ):8.5
- 空間飽和時の分解能:8
- 管制室の環境音の階層:8.5
- 音源の移動速度:7.5
- 爆音下のセリフ明瞭度:8.5
- 残響の収束速度:7.5
- 総合情報完遂度:8
合計:78 / 100
聴く前
このシーンを選んだのは「閉じた空間での奥行き」を測りたかったからです。宇宙船という閉鎖された金属空間で、制作チームがどれだけの奥行きを設計しているか。そしてHD 505の広い音場がその奥行きをどう再現するか。
予測では、開放型の強みが出やすいシーンだろうと思っていました。距離感の再現は開放型が得意とするところで、さらに音場が広ければ距離の階層がより鮮明に出るはずです。特に爆音下のセリフについては、中高域の解像度が上がっている分だけ明瞭度が増す可能性があると思っていました。ただし低域がHD 560Sより控えめな分、爆発音の存在感がどこまで出るかについては不安がありました。
体験
このシーンでHD 505が最も際立ったのは、「遠さ」の表現と爆音下のセリフです。
廊下の向こうから走ってくる金属足音の接近感は、距離のグラデーションがより細かく再現されています。「遠くにいる」から「近づいてくる」から「目の前を通り過ぎる」という各段階が、連続してなめらかに追跡できます。広い音場の中で、音源の位置がブレずに動いていく感じがあります。
爆音下のセリフ明瞭度は予測通りの結果が出ました。銃撃と爆発が続く中でも、キャラクターの声が鮮明に聞こえます。「パ行」「タ行」といった子音の立ち上がりが、中高域の解像度によってはっきりと届きます。爆音の中でセリフが聞こえるというより、爆音とセリフが別々のレイヤーとして共存している感じです。
船内の環境音の階層も8.5点です。冷却系の低いハム音、船体の遠い軋み、どこかで鳴り続けている機械音。これらが全部、異なる距離感と音量で独立して存在しています。意識して探さなくても自然に耳に届いてくる。音場の広さが、主役でない音たちに居場所を与えています。
低域の制動は5.5点です。爆発音の量感がHD 560Sより控えめで、爆発が「大きく鳴る」というより「精密に鳴る」という感じになります。迫力の面では後退しますが、爆発の中にある細かい音が埋もれにくくなる効果もあります。
音源の移動速度については7.5点です。高速で移動する音源の追跡は、開放型として音が外に広がる性質上、ある種のもたつきが出ます。HD 560Sと同じ傾向で、これは構造の問題です。
聴いた後
「広さが情報密度を支える」という体験が最も明確に出たシーンでした。
音場が広いということは、それぞれの音に割り当てられる空間が増えるということです。その余裕が、爆音下のセリフを浮かび上がらせ、環境音の階層を整然と届けています。広さと精度が同時に機能したとき、このヘッドホンはこれだけの情報を整然と届けられる。このシーンはその確認になりました。
一方で低域の控えめさは、爆発音の質感に正直に出ます。情報として届いてはいますが、アトモスで感じた「爆発の圧力が体を押す感覚」はこのヘッドホンからは来ません。
シーン3:磁力兵器
採点
- 高域のキレ・伸び:8.5
- 中域の密度・実在感:8.5
- 低域の制動:5.5
- 衝撃波の物理的圧力:5
- 超低域の空気の壁:5
- アトモスを思わせる上下方向の音場再現:7
- 全方位飽和時の立体分解能:8.5
- 音源の三次元追跡精度:7.5
- 空間飽和時の分解能:8
- 総合情報完遂度:7.5
合計:71 / 100
聴く前
このシーンではHD 505は苦しむだろう、という予測がありました。
磁力兵器は低域の物理的圧力と垂直方向の音場が核心のシーンです。設計チームは「劇場の天井から側面全体にかけて強烈な音が流れ込み、上方向への動きを感じさせる」と説明しています。開放型で低域の量感も控えめなHD 505が、この「圧力そのものが演出である」シーンでどこまで踏ん張れるか。楽しみというより、どこまで持ちこたえるかを見届けるような気持ちで臨みました。
体験
磁力兵器が起動して金属が上空へ吸い上げられていく過程で、「上に向かっていく」という方向感はあります。音が頭の中の上の方へ向かっていく感覚は出ています。ただそれが垂直方向の動線として独立して届くというより、上方向へ向かいながら横にも広がっている感じです。HD 505の広い音場が、ここでは少しだけ邪魔をします。縦の情報が横の広がりに混ざっていく。HD 560Sが「縦が横になる」とすれば、HD 505は「縦が縦と横に分散する」という違いです。音場が広い分だけ、縦の情報がよりなだらかに溶けていきます。
衝撃波の物理的圧力と超低域の空気の壁は5点です。低域のエネルギーが外に逃げる開放型の構造に加えて、量感そのものが控えめな設計が重なっています。「空間の圧力が変わる感覚」はほぼ出てきません。情報としての低域は届いていますが、このシーンで設計されている圧力の体感は、このヘッドホンの設計では再現が難しいと感じました。
一方で空間飽和時の分解能と音源の三次元追跡精度は高いです。無数の金属片が飛び交う飽和状態でも、HD 505の広い音場は各音を整然と配置し続けます。圧力の体感はなくても、何がどこにあるかという情報は最後まで整理されています。
聴いた後
予測通りでした。開放型という構造の制約に加えて、低域量感の差が重なった結果、このシーンの総合点は3シーンの中で最も低い71点になりました。
得るものがあれば失うものがある。このシーンはHD 505にとって、その「失うもの」が最も集中した場所でした。
補足:ロストエイジで実際に感じた上下方向の音
以下は採点対象の3シーンとは別に、全編視聴中に実際に上下方向の音として感じた場面の記録です。採点はありませんが、このヘッドホンがロストエイジという作品の中でどのような空間表現を再現できているかを示すデータとして残しておきます。
ラチェットvs墓場の風(ロックダウン登場):
ロックダウンの声は頭上から聞こえます。さらにこのシーンでは、上空に向かって放たれるミサイルが頭上を飛んでいく動線がより鮮明に追跡できました。上昇する音源の動線が、軌跡として成立しています。
ケイド一家とオプティマスの納屋での初遭遇:
オプティマスの声は頭上後方から聞こえますが、HD 560Sと比べるとやや低い位置に感じます。高さの表現が、HD 560Sほど上に届かない場面があります。
頭上を飛ぶヘリ・戦闘機・宇宙船:
おおむね頭上を通ります。ただし気持ちやや低い場所を飛んでいるように聞こえる場面があります。高度の高い飛行物体と低い飛行物体の差は判別できますが、最高高度の表現がHD 560Sよりわずかに抑えめです。
高所の下を通る戦闘機:
音が下に向かっていきます。この動線はHD 505でも成立しています。
ルーカス死亡シーン:
屋根の上を歩くロックダウンの足音は一段高い場所から聞こえます。爆発が上がっていく動線も成立しています。HD 560Sとほぼ同じ体験ですが、爆発後の細かいチリチリ音はより鮮明に聞こえます。
オプティマス復活・ハウンドのガトリング頭上乱射:
頭上にある音源が移動しながら鳴り続ける体験は同様です。高域の鮮明さが増している分、銃声の粒立ちがより細かく、移動の軌跡が少し鮮明になります。
宇宙船内部:
ケイド親子が再会するシーンの頭上エンジン音はHD 560Sと同様に上から聞こえます。音数が多すぎる船内の他の場面では追跡しきれない点も同じです。
ケイドたちを救出したバンブルビー:
上から降ってくる瓦礫が音でも降ってきます。高域の解像度が上がっている分、破片の甲高さが増しました。瓦礫の質感が、より細かく届きます。
ロックダウンの戦艦・磁力装置室内:
室内でトラックごと持ち上げられるシーンは、包丁などの金属音の甲高さが増した分、引き上げられていく金属の輪郭がより鮮明です。採点対象の磁力兵器シーンとは別に、このシーンの室内での金属の動きはHD 505の高域解像度が良い方向に出ていました。
トランスフォーマーたちの声:
セリフがあるべき場所からしっかり聞こえます。映像と音の方向が一致しており、HD 560Sと同様の体験です。
オプティマスvsグリムロック:
グリムロックに話しかけるオプティマスの声が左下から聞こえます。オプティマスが見上げるほどの巨体がいるという位置関係が、声の角度だけで伝わってきます。
総評
HD 505はロストエイジの3シーンを通じて一貫して「広さが情報密度を支える」機種でした。
派手さはありません。低域の圧力もなく、爆発の迫力という意味での興奮もない。しかし「何が鳴っているか」「それがどこから来ているか」という問いに対して、このヘッドホンはHD 560Sよりも広い空間で、より細かく答えました。
3シーン合計スコアは225.5点(満点300点)でした。
補足セクションに記録した上下方向の音についても、HD 505は多くの場面で再現できています。ただHD 560Sと比べると、最高高度の表現がわずかに低め・抑えめになる傾向があります。広い音場が縦の情報を横にも分散させてしまう、このヘッドホンの傾向がここにも出ています。
このヘッドホンとロストエイジ
HD 505でロストエイジを通して聴いて、最も印象に残ったのは「声の鮮明さ」でした。
アトモスで観ているときはトランスフォーマーの声の迫力や空間の広がりとして体験していたものが、このヘッドホンでは一つひとつのセリフの質感として届いてきます。巨体が見下ろしながら話しているときの声の角度、遠くから呼びかけているときの距離感。それらが音場の中で別々の場所に収まって聴こえてきます。宇宙船内追跡のシーンで爆音中でもセリフが浮かび上がってくる体験は、この特性が最も効いていた場面でした。
苦しんだのは磁力兵器のシーンです。低域の量感が控えめな開放型として、圧力で聴かせるシーンでは二重の制約を受けます。加えてHD 505の広い音場が、垂直方向の情報を横の広がりに溶かしてしまう場面もありました。このヘッドホンの「広さ」は、このシーンでは一長一短として現れます。
ガルバトロンの変形シーンは、粒子の輪郭が一段階細かくなりました。HD 560Sで「音の地図」として把握できていたものが、HD 505では個々の粒子の材質感まで届いてくる感じです。ただ粒子の重さはやや軽くなる。情報量よりも情報の質が上がった体験でした。
4万円台後半の開放型として、このヘッドホンが出してくるスコアは誠実な結果だと思います。圧力を求めなければ、広さと精度を両立した選択として、ロストエイジの多くのシーンで楽しく聞かせてくれます。

「HD 505」参考データ再掲
- 形式:開放型ダイナミック
- インピーダンス:120Ω
- 感度:104dB
- 周波数特性:12Hz〜38,500Hz
- 重量:237g(ケーブル除く)
- 価格帯:4万円台後半(価格変動があります。購入時は必ず最新価格をご確認ください)
- 本来の用途:リスニング・分析的モニター
- 映画音響としての一言評価:「広さが情報密度を支える開放型。圧力は出ないが、声と空間の階層はこの価格帯で最も整然と届く。」